劇場文化

2012年6月29日

【ソウル・オブ・ソウル・ミュージック】静岡公演に寄せて(金晶洙)

 韓国の伝統音楽である「国楽」は、正楽・民俗楽・創作音楽に分類されます。「正楽」は宮中を中心とする主に上流階級が楽しんだ音楽です。「民俗楽」は主に韓国の巫俗儀式で使われた音楽を根源に持つ土俗音楽であり、庶民に親しまれ伝承されたものです。そして1960年代以降この2つの音楽をもとに西洋的な作曲技法と楽器編成を融合させ、現代人の感覚に合うように再創造された国楽の新しいジャンルを「創作音楽」と言います。
 ソウル市国楽管弦楽団は、1965年に創設された韓国で最初の国楽管弦楽団です。韓国の伝統音楽の創造的継承につとめ、時代の感覚にあった現代創作曲を開発し、韓国創作音楽の新しい進化に日々はげむリーダー的な役割を担う韓国で最高の管弦楽団です。伝統音楽の普及を目指し、ソウル市の顔として国楽を世界へ伝えるために、他国の音楽であるジャズやポップスなどと共演したり、光と色彩を用いた斬新な映像音楽にも挑戦しました。これらの試みを通じて韓国伝統音楽の新しい変化と、ワールドミュージックの中心への融合を目指し、韓国音楽の未来のかたちを提示するため日々、変貌を続けています。 
 2012年6月30日と7月1日の2日間「WorldTheatreFestivalShizuoka under Mt. Fuji 2012」の一環として上演される『ソウル・オブ・ソウル・ミュージック(Experience the Strings of Korea)』には、ソウル市国楽管弦楽団のコムンゴ奏者のキム・ソンヒョさんと、カヤグム主席奏者のカク・ジェヨンさんが参加いたします。
 私はソウル市国楽管弦楽団の団長兼任常任指揮者として、日本の皆様にこの2人の奏者を紹介することができ、誠に誇らしく光栄に存じます。わが楽団のこの若い2人は、数多くの公演に出演し好評を得ており、韓国内でも優秀な演奏者として認められています。
 この2人は、伝統音楽の正楽の霊山会相(ヨンサンフェサン)から下弦還入(ハヒョントドゥリ)と、民俗器楽の代表的な楽曲である散調(サンジョ)を新しくアレンジした変奏曲や、最近作曲された最新の創作曲などを皆様にお届けいたします。韓国伝統音楽の2本柱と言える正楽と民俗楽。そして、韓国音楽の現在形と言える創作音楽を、一度に堪能できる非常によい機会であると思います。
 これらの曲はソウル市国楽管弦楽団で行われてきた新しい試みの断片、ほんの一部ですが、伝統と現代がともに舞台の上で1つとなり共存する「調和の場」になると、私は確信いたします。
 「Experience the Strings of Korea」のテーマは「韓国音楽の多様性」です。音楽の形式や楽器の持つ特性だけではなく、韓国音楽の過去と現在を表現しようとするからです。
 ソンビ(朝鮮時代の学者)が好んで演奏し、男性的な音色を持つ弦楽器のコムンゴと、同じ弦楽器だが対照的に女性的な音色のカヤグム。この2つの楽器が織りなす調和は、韓国伝統音楽の「陰と陽の思想」そのものだと言えます。また、古来から受け継いだ姿のままのコムンゴと、新しい音楽に対応するために25弦に改良されたカヤグムの合奏は、韓国音楽が現代に力強く脈打つ躍動美を感じさせる事と存じます。
 この公演を通じて、韓国と日本の多様な音楽的交流の新しい取り組みが行われる事を期待いたします。

【筆者プロフィール】
金晶洙 KIM Jung-Soo
ソウル市国楽管弦楽団指揮者、韓国国楽協会会長、秋季芸術大学大学院学長